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多重債務相談者の実情①

これまで多重債務相談者の状況を簡単に説明してきたが、初回面談を受けた方々のデータをふまえ、より詳細にみていくことにしよう。

①債務の原因
年度による大きな違いはみられないが、「遊興費・ギャンブル」を原因とする人たちは年々減少し、その比率は10%に満たない。「生活費・教育費・税金・医療等」は年々増加している。 2009年度に入っでからは、「住宅ローン」を原因とする人たちが目につく。「借金返済・賠償・保証債務」の回答比率も依然として高水準であるが、年々減少している。

②性別
年々、女性の比率が低下してきている。 2008年度は福岡県との協働事業がスタートしたことにより、男女ともに面談者が増えたが、とりわけ男性の増加が目立つ。

③組合員と員外との比率
2008年度は組合員比率が著しく低下した。福岡県の主要都市における組合員の地域組織率は約11%弱であり、12.6%という組合員の面談率は妥当な数字ともいえる。 2009年度は組合員の相談比率が上昇しているが、一般市民への広報不足によると考えられる。一方、組合員からの相談実数は年々増加しており、組合員世帯にも問題が広がりつつあることが懸念される。

④面談を受けた人の年齢
2006年度、2007年度は40代が最も多く、組合員層の年齢分布とも一致している。 2008年度、2009年度は20~30代の比率が減少する一方、60代以上の比率が上昇した。特に、2008年度に入り60代以上の比率が20%を超え、2009年度も高齢者の相談が増加している。

⑤面談を受けた人の職業
前記②で述べたとおり、2008年度は男性の増加に伴い、「主婦」の比率が減少した。一方、「無職」の人や「パート・アルバイト」「年金受給者」の比率が増加しているのが懸念材料である。

⑥相談のきっかけ
2006年度・2007年度および2009年度は、グリーンコープの組合員向けチラシや機関紙、口コミにより情報を得て相談する人が多かった。 2008年度はマスコミによる情報での比率が上昇しているほか、2008年度・2009年度はインターネットによる相談が増えている。

「セーフティネット貸付」の具体例とは

福岡県の場合、麻生渡知事がグリーンコープの活動や要請に強い関心を寄せ、リーダーシップを発揮した結果が協働事業に発展した。年間約3,000万円の予算設定などバックアップをしていただいた結果、福岡市のほか北九州・直方・久留米にも生活再生相談室を設置することができ、大幅な採算割れに陥ることもなく生活再生相談事業を展開している。しかし、2008年にスタートした熊本・大分・山口での生活再生相談事業は、福岡のような予算措置がないため大幅な赤字を避けることができなかった。福岡県内での事業も、県との協働事業がスタートする以前は同様の窮状に見舞われ、生活再生相談室を設置した初年度と翌年で合計7,300万円の赤字が発生し、本体事業でカバーした。

貸付原資は生協の運営資金を充てているが、収入が不安定な人たちへの貸付をすべて民間で行うのは問題が大きいといえよう。貸倒れへの債務保証を国の責任で行うなどのサポートが必要である。 2009年11月には長崎県内で相談事業を開始したが、熊本・大分・山口3県での活動も含め、今後に関するわれわれの不安は尽きない。福岡県との協働事業の経験をふまえていえば、相談室を1ヵ所開設する場合、貸付原資とは別に1,500万円程度の予算措置をいただければ十分に運営できるものと考えられる。

仮に、全国47都道府県に1ヵ所ずつ相談室を設置する場合には7億500万円の事業運営費の予算措置が必要になるが、地方財政の厳しい実情を勘案すれば、国としての予算措置をぜひ前向きに検討してもらいたい。国の予算規模全体からすれば、7億500万円のウェイトはごくわずかであるが、債務整理を行っても家賃・水道光熱費・学納金などの滞納により生活を再スタートできない人たちの生活再生を確実に行い、その後の家計をサポートしていく効果は計り知れないほど大きい。こうした点も理解してもらえれば幸いである。

「セーフティネット貸付」の充実と予算措置を

前項では多重債務相談者の債務残高や年収について触れたが、面談者本人を含む家族の状況はどうなのか。初回面談を受けた人たちのデータによると、以下のとおりとなる。まず面談者本人を含む家族数をみると、2007年度と比較し、2008年度以降は単身~3人世帯が減少し、4人以上の世帯が増加した。特に4人以上の世帯については、2008年度は54.2%を占め、2009年度はさらに家族数が増えて59.1%に至っている。本人・夫婦だけでは家計収入が不足するため、父母と一緒に生活しその年金を頼りにしているケースが多いほか、就職している子供がいる場合にはその収入も組み入れているのであろう。まさに皆で肩を寄せ合って生活し、なんとかお金を出し合っている家族の実像が浮かび上がってくる。

では、一緒に生活している家族全体では、年収がどのぐらいになるのだろうか。平均すると400万円程度であり、家族全体の家計収入が301万~400万円の層は2007年度で18.7%、2009年度は22.3%に増加しているほか、家計収入が401万円以上の合計でみると、2007年度は27.2%、2009年度は30.5%と増加している。このように面談者の家庭全体の家計収入自体はわずかながらも上昇しているものの、前述したとおり、本人の収入のみならず妻のパート、父母の年金、場合によっては就職している子供の収入も含めた数字であり、家族数も年々上昇していることを考えると、生活は非常に厳しい状況に転じていることが予測される。

まさに皆で肩を寄せ合って生きでいても苦しいのが実情あり、こうした世界にも「セーフティネット貸付」が必要になっていると痛感させられる。「セーフティネット貸付」は、2007年4月20日に策定された「多重債務問題改善プログラム」に基づく施策であり、きちんと相談を行い問題の掘り起こしをしたうえで債務整理を経て貸付を実施するという「顔のみえる融資の充実」が謳われている。その理念自体は正しいものであり大いに期待するところであるが、先に述べたように相談者本人の年収低下、家族数の上昇という現実にかんがみれば、生活実態に即して機能しているとはいいがたい。実際には理念先行で実質的な対応策に欠け、期待外れの感も漂っている。

生活再生事業をめぐるグリーンコープの取り組み

グリーンコープでは日頃、ホームレスへの支援などを通じて貧困の問題に対峙しているものの、ワーキングプアと呼ぶべき人たちがあまりにも多い現実を目の当たりにするにつけ、生活再生事業の担当者らは絶句してしまう。先の女性のようなケースや年収100万円そこそこの生活など、一般企業に勤めるサラリーマンからは想像もつかない世界である。しかし多重債務相談者本人の年収をみると、年収300万円以下の人の比率は、2008年度で79%、2009年度には84.3%に達している。生活苦の問題は一般の人たちからすれば他人事のように映りがちだが、経済危機のなかでだれもが突然陥りかねない世界であることも事実である。

今後、年収300万円以下の相談者の比率がどのように推移するかは予断を許さないが、現時点では増加する傾向にあり、生活苦や貧困の問題への対策が不十分であることは火をみるよりも明らかであろう。ちなみに、社会福祉協議会では生活保護の一歩手前の状態、具体的にいえば年収200万~300万円クラスの人たちに「生活福祉資金貸付」を行う場合が多い。とはいえ、本来であれば社会福祉協議会による対応が必要な人たちがグリーンコープに相談に来ている様子がうかがえる。こうした点からも、貧困問題への対策を含めた多重債務対策の充実が望まれる。

多重債務対策自体は金融庁の所管であり、すでに多重債務問題改善プログラムを通じて問題解決に向けた取組みが開始されているが、関係省庁の動きが緩慢に映ると同時に、ともすれば民間団体や地方自治体にしわ寄せが行く結果となりやすい。多重債務問題は重要な消費者問題・地方問題であるとの認識のもと、たとえば地方消費者行政活性化交付金により地方に造成した基金の事業対象とするほか、消費者庁が司令塔となり消費者政策の一環として多重債務問題への対応を推進していく努力も求められるのではないか。

貧困の問題に直面

グリーンコープでは法的整理を基本にしており、借換えに力を入れているわけではないので、②の「金融債務」の比率が低下しているという側面もあろう。しかし、そうした事情があるにせよ、③の「自立支援」の比率が短期間のうちに上昇している事実は看過できない。これは、債務整理を行っても収入が少なければ、滞納生活費などの残債務が生活を圧迫し、結局は生活再生が円滑には進まないということにほかならない。「自立支援」の対象者は、金融機関はもちろん、消費者金融・クレジット会社等どこからも借入れができない。しかも経済基盤が脆弱なため、日々の生活だけで精一杯になりやすく、債務整理ができても貯蓄にまでお金が回らず、学資資金などの臨時支出に対応できない。

それだけに、こうした人たちの「自立支援」を目的とする貸付が増えている今日の事態はきわめて深刻といわざるをえない。「生活再生事業が貧困の問題に直面している」という最近の傾向について、もう少し具体的に述べてみたい。多重債務相談者の債務残高についで調べたものであるが、これによると、債務残高が100万円以下の相談者が年々増加している。 2009年度は相談者の28.2%を占める。多重債務者といえば、ともすれば数百万円レベルの多額の債務を抱えて汲々としているイメージが強く、数十万円レベルの債務でもがき苦しむ姿など想像すらつかなかった。

生活再生事業を開始して、はじめて100万円以下の債務に苦悩する人たちの実情を知り、その予想外の多さに驚愕した次第である。なぜ100万円以下の債務に苦しむ相談者が増えているのか。それは取りも直さず、収入が低く貧困に喘いでいる人が増えてきたからにほかならない。一例をあげると、生活相談事業で最初に担当した30歳の女性は、九州内のある地方から福岡に出てきて天神(福岡市中央区)の洋服店に勤めていたが、10年近く働いているにもかかわらず、健康保険料等天引き後の給料の手取額はわずか12万円にすぎなかった。

「自立支援」貸付の比率が急上昇

グリーンコープの生活再生事業は、当初は多重債務者の生活再生に主眼を置いてスタートしたが、前述のように最近では貧困の問題に直面するようになってきた。この点について、今度は生活再生貸付事業の観点から説明したい。生活再生貸付事業の目的は、この目的区分に沿っていえば、①~③が多重債務者への貸付に該当する。④の「一時的資金」(一時的生活資金貸付)は多重債務とは関係なく、組合員が純粋に緊急な資金を要する場合の貸付であり、生活再生貸付事業の4つの目的区分のなかでは最も比率が低い。

①「生活費滞納」(滞納生活費支払貸付)は現在、金融債務については解決のメドが立ちつつあるものの、税金・水光熱費など生活のベースとなる費用の減額が認められず滞納が続いている人が対象。債務整理と同時並行で貸付を行いながら生活再生への道筋をつけるねらいがある。②「金融債務」(小額債務弁済貸付)はいわゆる「おまとめローン」に相当し、借換えによっで金融債務を返済していくもの。グリーンコープでは法的な債務整理を基本としているが、債務が少額で法的整理ではコストが割高になる場合、年齢等の面で法的整理では不利益が大きくなる場合などに適用する。

一方、④「自立支援」(生活自立支援貸付)は、過去に債務整理を行った結果、事故情報に掲載され、消費者金融・クレジット会社等から借入れができない人たちを対象にしている。生活再生貸付事業の実績(構成比)を目的区分別にみると、③の「自立支援」は事業を開始した2006年度で25.0%にすぎなかったのに対し、2007年度は31.1%とわずかながら増え、2008年度に58.0%、2009年度には73.5%に急上昇した。①の「生活費滞納」を加えれば、2009年度は実に83.4%の人が(債務整理を今後行うか、すでに実施ずみかの違いはあるにせよ)債務整理に伴い一定の資金を準備しなければならない状況にあったことがわかる。債務整理だけで問題が解決するわけではない実情を端的に示している。

相談内容の変質化が顕著に

過払い金をめぐる最高裁判決や貸金業法の制定・段階的施行を受け、東京をはじめ大都市圏を中心に一部の法律事務所等が大々的に広告宣伝を行い、ビジネスとして債務整理を積極的に展開するケースが目立つ。このような債務整理については生活再生にはつながらず、問題が残る事例も少なくないが、表面的には債務整理に関する相談の場や受け皿が増えているようにみえる。その結果、消費生活センターや弁護士会、司法書士会では、全国的に多重債務に関する相談件数が減少しているといわれることが多い。しかし、先の法律事務所等による債務整理も含めて考えた場合、多重債務に関する相談件数はトータルでみれぱ必ずしも減少していないと考えられる。

最近の傾向として、相談内容の変質化か顕著になっている。グリーンコープでば2006年8月から生活再生相談事業を開始しているが、初年度はグリーンコープの組合員による過払い金への対応といった相談が大半を占め、相談内容が大変な事例はごく限られていた。ところが2007年度以降になると、相談内容が深刻化していく。端的にいえば、収入が乏しく生活に困窮している人たちの切迫した相談が増えているのである。一般的には、サブプライム問題を機に経済情勢が急激に悪化したように思われているが、実をいうとグリーンコープの生活再生相談室では、その直前の2008年春先から「経済崩壊の兆しがあるので内部を固めたほうがよい」との危機意識が高まっていた。

事実、同年8月頃から建築業関連の人たちによる倒産、給与の遅配、未払い賃金などに起因する貸付の相談が急増している。労働債権である給料をいかに取り戻すかなど労働組合の相談窓口に同行した事例があったほか、自営業者には貸付ができないので中小企業向けの窓口を紹介する活動も行ったほどである。その後、件のリーマンショックを経て、自動車産業などわが国の基幹産業にも影響が出始めるようになったが、自動車メーカー等で仕事を失った派遣職員には地元(福岡)在住の人が多く、直ちに生活に困窮する事例は少なかった。逆に、遠方から働きに来ている出稼ぎの労働者となると、建築・内装・造作関係の人が多く、事態ぱより深刻であった。

さらに2008年10月以降は、高齢者や母子家庭の人たち、職種では飲食業関係の人の相談件数が増えたほか、2009年に入ると運送業に従事する人たちの相談が増加した。製造業に影響が出ると、サービス業や運送業などにもダメージが幅広く波及する構図が如実にうかがえる。仕事があれば、多重債務者といえども収支バランスの改善、キャッシュフローの分析を通じてライフプランニングや生活再生の手立てを講じることも可能になる。だが、職がなければ生活ができず回収も困難になるので、貸付を行うわけにもいかない。かといって、そうした人たちを放置することはできず、相談員は一様に悩むこととなった。単なる多重債務問題の枠を超えた市民生活の危機、社会不安に直面しており、景気回復の実感はほとんどない。

「生活再生貸付事業」貸付業務の流れ

基本的には、以下のとおりである。面談の過程で多重債務状態が判明した場合には、正規の相談事業の流れに戻して解決を図ることとしている。

①相談者との丁寧な面談。福岡県民かどうか、本人の生活の状態、本人の生活再生に向かう意思の確認。

②生活再生貸付事業の意味・目的の説明、貸付条件の説明。

③必要とする貸付金額の確認と返済計画のシミュレーション。

④家計診断の必要性およびライフプラン作成契約の説明。

⑤連帯保証人の理解を深め、協力依頼の相談。

⑥相談者は貸付の正式な手続を行うため、所定の貸付申込書を提出する。

⑦家計表作成やライフプラン・キャッシュフロー表の作成によって返済可能な家計状況の分析および家計指導を行う。

⑧貸付申込書の提出に基づき、客観的な生活状況の調査などを行う。

⑨家計表作成やライフプラン・キャッシュフロー表の作成、客観的な生活状況の調査などによって、貸付の可否判断の最終決裁を行う。

⑩相談者と面接し、貸付内容(および貸付返済計画内容)を確認し、契約書を作成する。連帯保証人もしくは協力者との面談で最終確認。

⑪貸付金を所定の口座へ入金する。具体的には、滞納金であれば滞納先に本人名義で送金する。

⑫返済期日に口座自動振替によって返済金の入金を受ける。

⑬万一、返済金の遅滞や未入金が発生した場合は、電話相談や再面談によって家計相談を行う。

⑭2~3年間は、定期的な面談を行う。